この記事でわかること
・経理はAIでなくなるという説の出どころと、原典に書かれている2つの但し書き
・AIより先に起きているのは人手の減少だという実数(55歳以上22.0%に対し30歳未満18.1%)
・置き換わる業務と残る業務を、転記・照合・判断の3分類で切り分ける
・いまの職場に残るか動くかを見極める基準
※会話は、面談でよくいただくご相談をもとに再構成しています。
経理の仕事は、AIでなくなると言われますよね。このまま続けていて大丈夫でしょうか。
LXキャリア
そのご相談は、面談でもよくうかがいます。ただ、根拠をたどると、もとになっている調査はほぼ1つなんです。しかも原典には大事な但し書きがあるので、まずはそこから確かめてみましょう。
そこで本記事では、まず説の出どころを原典まで遡ります。次に、いま実際に起きている変化を公的統計の実数で確認します。そのうえで、残る仕事と消える仕事を切り分けます。
「経理はAIでなくなる」の出どころ
まず、根拠として引用される調査はほぼ1つに集約されます。野村総合研究所が2015年12月に公表した試算です。
「経理事務員」は確かに入っている
そもそもこの試算は、英オックスフォード大学のオズボーン准教授らとの共同研究として実施されました。国内601種類の職業について、AIやロボットによる代替確率を算出しています。
結果として、10〜20年後に日本の労働人口の約49%が技術的にはAI等で代替可能と推計されました。そして「代替可能性が高い100種の職業」の一覧には、たしかに「経理事務員」と「会計監査係員」が含まれています。
原典には2つの但し書きがある
ここからが本題です。多くの記事は100職業のリストだけを引用します。しかし原典のニュースリリースには、次の2点が明記されています。
| 但し書き | 意味すること |
|---|---|
| あくまで技術的な代替可能性であり、実際に代替されるかは労働需給を含めた社会環境要因の影響も大きい | 技術的に可能でも、そうなるとは限らない |
| 業務の一部分のみをコンピューターが代わりに遂行する確率や可能性については検討していない | 測ったのは職業まるごとの代替であり、タスク単位ではない |
出典:株式会社野村総合研究所「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」(2015年12月2日)。
つまりこの試算は、経理という職業の消滅を予言したものではありません。あくまで1人分の業務すべてを技術的に代替できる確率を測った数字です。したがって実務で起きるのは、職業の消滅ではなくタスク単位の置き換えになります。
もっとも、楽観だけでは危険です。経済産業省が2022年5月に公表した「未来人材ビジョン」でも、2050年に向けて事務・販売従事者の労働需要は減ると推計されています。逆風であること自体は否定できません。
【実数】AIより先に、人がいなくなっている
そこで、いま実際に起きている変化を見ておきましょう。厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」から、会計事務従事者の年齢構成が読み取れます。
| 区分 | 労働者数 | 構成比 |
|---|---|---|
| 55歳以上 | 102,590人 | 22.0% |
| うち60歳以上 | 47,490人 | 10.2% |
| 30歳未満 | 84,430人 | 18.1% |
| 全体 | 466,030人 | 100% |
出典:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」職種(小分類)第5表「会計事務従事者」。企業規模計・男女計。区分ごとの合計は当社が算出。
まず、55歳以上が102,590人であるのに対し30歳未満は84,430人です。差は18,160人あります。つまり今後10年ほどで定年年齢に達する層のほうが、入ってくる層より多い構成になっています。
ここから言えることは1つです。経理の現場で先に起きているのは「AIに奪われる」ではなく「人が足りなくなる」という変化です。だからこそ自動化が進んでも、求人が消えるという構図にはなっていません。
人が足りないなら、経理の求人はむしろ増えるということですか。
LXキャリア
少なくとも、求人が消えるという構図にはなっていません。ただ、人が減るぶん一人あたりの守備範囲は広がります。つまり、同じ仕事が同じ形で残るわけではないんですよ。
残るけれど、中身は変わるということですね。
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置き換わる業務と、残る業務
では実務のどこから削られるのでしょうか。つまり境界線は「判断を含むかどうか」で引けます。
| 分類 | 具体例 | 行方 |
|---|---|---|
| 転記 | 請求書の入力、銀行明細の取込、定型仕訳の起票 | 消える |
| 照合 | 通帳と会計データの突合、経費精算のチェック、残高照合 | 条件を定義できれば消える |
| 判断 | 新しい取引の会計処理方針、引当金の見積り、監査法人との論点整理 | 残る |
判断を伴う仕事には、社内の事情や過去の経緯、相手の立場といった文脈が絡みます。しかも最終的には責任が伴います。AIは処理を代行できますが、責任を引き受けることはできません。
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制度対応が自動化を後押ししている
さらに、もう1つ押さえたいのが制度面です。電子帳簿保存法により、電子取引データは電子のまま保存することが原則になりました。紙に出力して保存する宥恕措置は2023年末で終了しています。
ただし、代わりに猶予措置が設けられています。相当の理由があり、ダウンロードの求めと出力書面の提示に応じられる場合には、検索要件等を満たさなくてもよいという扱いです。つまり「紙に戻ってよい」わけではありません。
いずれにせよ、データが最初から電子で入ってくる以上、その先の処理を自動化しない理由はありません。したがって制度改正は、経理の自動化を実質的に加速させています。
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それでも需要が消えない3つの理由
理由1:制度が変わるたびに人の判断が必要になる
まずインボイス制度、電子帳簿保存法、収益認識基準。つまり経理の前提ルールは数年おきに変わります。ルールが変われば、自動化の設定そのものを組み直す必要があります。
しかも改正の内容は毎回違います。だから前回と同じ対応では済みません。ここは人が読み解いて設計するしかない領域です。
理由2:多くの企業は自動化以前の段階にいる
次に、紙の申請書とExcelが併存している職場はいまも珍しくありません。そうした環境では、自動化の前に業務の標準化が必要になります。つまり導入以前の工程が残っています。
理由3:導入を設計できる経理が足りない
そして、ツールを入れるだけでは定着しません。どの工程を自動化し、例外をどこで逃がすかを決める人が要ります。ところがその判断ができるのは、実務を知っている経理だけです。
加えて、前掲の年齢構成があります。人が減るなかで守備範囲が広がるため、設計できる人材の価値はむしろ上がっています。
自動化が進んだ職場で、経理は何をしているか
抽象的な議論を避けるため、実際に自動化が進んだ職場の話をします。当社が扱う求人からは、業務の重心が移っていることが読み取れます。
| 自動化後に増える仕事 | 中身 |
|---|---|
| 例外処理 | 標準フローから外れた取引を、どう処理するか判断する |
| データの整備 | マスタの統一、勘定科目の整理、取引先コードの管理 |
| 検証 | 自動で出てきた数字が妥当かを確かめる |
| 他部門への説明 | なぜその処理になるのかを、経理以外の人に伝える |
| 制度対応の設計 | 改正のたびに、運用とシステム設定を組み直す |
とくに1つ目と3つ目は見落とされがちです。自動化しても例外は必ず出ますし、出てきた数字を誰かが確かめる必要があります。しかも自動化が進むほど、検証できる人の重要度は上がります。
置き換わりは「職種」ではなく「工程」で進む
ここまでを整理すると、変化の単位が見えてきます。消えるのは職業ではなく工程です。前掲の野村総合研究所の但し書きも、まさにこの点に触れています。
自分の仕事が残る側なのか、どうやって見分ければいいのでしょうか。
LXキャリア
職種名ではなく、工程で考えてみてください。たとえば1か月の業務を工程に分けて、転記と照合が何割を占めるかを数えるんです。その割合が高ければ担当範囲を変える必要がありますし、判断の時間が多ければ当面の心配は小さいといえますよ。
まずは自分の業務を、3つに仕分けてみます。
価値が上がる4つのスキル
| スキル | なぜ効くか |
|---|---|
| 1. 決算を最後まで締められる | 期限が動かない業務を回し切る力は自動化しにくい |
| 2. 管理会計・FP&Aの視点 | 数字を作る側から使う側へ移れる |
| 3. システムとデータの理解 | 導入と例外処理の設計ができる |
| 4. 説明する力 | 数字の背景を他部門と経営に伝えられる |
つまり4つに共通するのは、いずれも「判断」の周辺にあることです。逆にいえば、転記と照合だけを続けている状態が最も危うくなります。
👉 あわせて読みたい:管理会計ができる経理は転職市場でどれほど評価される?/転職前に身につけておくべき経理スキル5選
生成AIは経理の何を変えたか
2015年の試算が想定していたのは、主にルールベースの自動化でした。しかし近年は生成AIが加わり、対象が広がっています。そこで、いま何が変わりつつあるかを整理します。
| 場面 | 変わりつつあること | それでも残ること |
|---|---|---|
| 制度改正の調査 | 条文や通達の要約が速くなった | 自社の取引に当てはめる判断 |
| 資料作成 | 説明文の下書きが作れる | 数字の根拠を確かめる作業 |
| 問い合わせ対応 | 社内の定型的な質問に答えられる | 例外的な取引の可否判断 |
| Excel作業 | 関数や集計の組み立てが速くなった | 出力が正しいかの検証 |
共通しているのは、下ごしらえが速くなった一方で、検証が残っている点です。つまり生成AIが加わっても、境界線は「判断を含むかどうか」のままです。
ただし注意点があります。会計や税務の分野では、出力に誤りが混じる場面があります。しかも一見もっともらしい形で出てくるため、知識のない人ほど気づけません。したがって基礎知識の必要性は、むしろ上がっています。
加えて、社外へ出せない情報の扱いも論点になります。だから利用の可否は、必ず社内のルールを確認してから判断してください。
残るか動くかを見極める基準
| 市場価値が下がりやすい職場 | 経験が積み上がる職場 |
|---|---|
| 担当が固定され、範囲が変わらない | 数年ごとに担当領域が入れ替わる |
| 制度対応を外部に任せきりにしている | 制度改正の検討に社内で関われる |
| システムの選定に経理が関わらない | 要件定義から経理が参加している |
もし右側に当てはまるなら、慌てて動く必要はありません。反対に左側が続いているなら、担当範囲を変える交渉か、環境を変える判断が要ります。
なお動くタイミングについては、担当した業務の「型」ができた直後が説明しやすくなります。中途半端な段階では、経験を語りにくいためです。
👉 あわせて読みたい:経理は何年目で転職するのが正解?タイミング別メリット・デメリット
それなら、いまの経験がどのくらいの年収で評価されるのか知りたいです。
LXキャリア
たとえば経理の年収診断なら、担当範囲と保有資格から想定年収の目安が90秒でわかります。そのうえで、判断に使う時間を増やせる職場かどうかを一緒に見ていきましょう。
まずは自分の現在地を確かめてみます。
経理とAIに関するよくある質問
Q1. 簿記2級は今から取っても意味がありますか
あります。自動化されるのは処理であり、出てきた数字を検証する力はむしろ必要になります。加えて、簿記2級は求人の応募要件に最も多く登場する資格です。
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Q2. 40代・50代はどう動くべきですか
前掲のとおり、会計事務従事者の55歳以上は22.0%を占めます。つまり同世代が多数派の職種です。そのうえで、締め切る力と外部対応の経験を前面に出してください。
Q3. 未経験から目指すのは今からでは遅いですか
遅くはありません。ただし入口は転記中心の業務になりやすいため、早い段階で決算業務に触れられる環境を選んでください。
👉 あわせて読みたい:20代未経験から経理へ転職できる?成功率を上げる4ステップ
Q4. 生成AIを使えると評価されますか
使えること自体より、どの業務にどう適用したかが問われます。したがって「調べものに使った」ではなく「どの工程を、何時間から何時間に減らしたか」で語ってください。
Q5. 自動化を進める側に回るには、何から始めればよいですか
自分の担当工程を時間で測るところからです。まず1か月ぶんの作業を、工程ごとに所要時間で書き出してください。そのうえで、手作業の転記や照合が多い工程を選びます。つまり道具の勉強より、対象の特定が先になります。したがって最初の一歩は、ツールの導入ではなく現状の可視化です。なお削減できた時間は、そのまま職務経歴書に書ける実績になります。
Q6. 経理の求人そのものは減っていますか
求人が消えているという状況ではありません。まず本文で見たとおり、現場では人手が足りない状態が続いています。ただし求められる中身は変わりつつあります。つまり転記中心の募集は減り、決算や制度対応を任せられる人の募集が残ります。したがって同じ「経理職」でも、求人票の業務範囲を読み比べる必要があります。
まとめ|なくなるのではなく、中身が変わる
経理はAIでなくなるという説の出どころは、2015年の野村総合研究所の試算です。しかし原典には、技術的な可能性であること、タスク単位は検討していないことが明記されています。
そして現場で先に起きているのは、人手の減少です。会計事務従事者の55歳以上は22.0%、30歳未満は18.1%で、差は18,160人あります。つまり抜ける層のほうが多い構成です。
消えるのは転記と照合、残るのは判断です。だから守るべきは職種ではなく、判断に使う時間の割合になります。まずは自分の1か月の業務を、この3分類で仕分けてみてください。
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📌 この記事の一次情報源
- 株式会社野村総合研究所「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」(2015年12月2日ニュースリリース。601種類の職業の代替確率、代替可能性が高い100種の職業、および2つの但し書き)
- 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」職種(小分類)第5表(会計事務従事者の年齢階級別労働者数)
- 国税庁「電子帳簿保存法関係」(電子取引データの保存義務、宥恕措置の終了と猶予措置)
- 総務省「平成30年版 情報通信白書」(職業の変化に関する記述)
- 経済産業省「未来人材ビジョン」(2022年5月公表。2050年に向けた職業別の労働需要の推計)
