仕訳のやり方がわからず、会計ソフトの入力画面で手が止まる。経理を始めたばかりの方に、とても多い悩みです。
ただし、仕訳は取引パターンを丸暗記する作業ではありません。勘定科目の5グループと、増減のルールを1つ押さえるだけで組み立てられます。初めて見る取引でも、自力で判断できるようになります。
この記事では、仕訳のやり方を3ステップに整理します。さらに、実務で使う勘定科目一覧、頻出の仕訳例、つまずきやすいポイントまでまとめました。加えて、仕訳スキルが転職市場でどう評価されるかも解説します。経理1〜3年目の方に向けた保存版です。
仕訳とは?複式簿記で取引を借方と貸方に分ける
まず、仕訳の正体をはっきりさせます。ここを曖昧にしたまま入力を覚えると、応用が効かなくなります。
仕訳は取引を2つの側面から記録する作業
仕訳とは、1つの取引を「借方(左)」と「貸方(右)」の2つに分けて記録することです。この方式を複式簿記と呼びます。
たとえば「商品を現金10万円で売った」という取引を考えます。会社の側から見ると、現金が10万円増えました。同時に、売上が10万円発生しています。この2つを同時に記録するのが仕訳です。
つまり、複式簿記は「お金がどう動いたか」と「なぜ動いたか」を必ずセットで残す仕組みだといえます。片方だけの記録では、決算書は作れません。
仕訳の目的は貸借対照表と損益計算書を作ること
仕訳は、それ自体が目的ではありません。最終的に貸借対照表と損益計算書を作るための素材です。
国税庁は、青色申告で求められる「正規の簿記」をこう説明しています。損益計算書と貸借対照表が導き出せる、組織的な簿記の方式です。一般的には複式簿記がこれにあたります。
そのため、目の前の1本の仕訳が決算書のどこに着地するかを意識すると、判断の精度が上がります。この視点は、経理の仕事内容 完全ガイド|1日の流れと年間業務で解説している月次・年次の業務全体ともつながります。
仕訳帳から総勘定元帳へ転記される
仕訳を記録する帳簿が仕訳帳です。国税庁の記帳の手引きでは、仕訳帳を「取引の発生順に、年月日・内容・勘定科目・金額を記載する帳簿」と定義しています。
一方、総勘定元帳は同じ取引を勘定科目ごとに集計する帳簿です。仕訳帳が時系列の記録、総勘定元帳が科目別の集計と考えるとわかりやすいでしょう。
現在はほとんどの会社で、会計ソフトが転記を自動で行います。ただし、元帳の並びを理解していないと、差異が出たときに追跡できません。
仕訳のやり方は3ステップ|分解・科目決定・左右の判定
ここからが本題です。仕訳のやり方は、次の3ステップに分解できます。この順番を守れば、初見の取引でも迷いません。
ステップ1|取引を2つの側面に分解する
最初に、その取引で何が増えて何が減ったかを日本語で書き出します。専門用語はまだ使いません。
たとえば「事務用品を現金3,000円で買った」を分解します。すると「事務用品の費用が発生した」と「現金が3,000円減った」の2つになります。この分解ができれば、仕訳は8割終わったも同然です。
ステップ2|勘定科目を決める
次に、書き出した内容を勘定科目に置き換えます。先ほどの例なら「消耗品費」と「現金」です。
ここで重要なのは、科目名を自己流で決めないことです。多くの会社には勘定科目マニュアルがあります。まずは自社の科目一覧を確認してください。
ステップ3|増えたか減ったかで借方・貸方を決める
最後に、それぞれを借方と貸方のどちらに置くかを判定します。判定基準は次章の5グループのルールだけです。
なお、借方と貸方の金額は必ず一致します。一致しない場合、どこかで分解を間違えています。合計が合わない仕訳は、そもそも成立しません。
仕訳の基本ルール|5グループの増減で借方・貸方が決まる
仕訳のルールは、覚えるべきものが1つしかありません。それが5グループと増減の対応です。
勘定科目は必ず5グループのどれかに入る
すべての勘定科目は、資産・負債・純資産・収益・費用の5つに分類されます。例外はありません。
このうち、資産・負債・純資産は貸借対照表に載ります。一方、収益と費用は損益計算書に載ります。科目を見たとき、どちらの決算書に行くかを即答できる状態を目指してください。
増減と借方・貸方の対応表
次の表が、仕訳の基本ルールのすべてです。この1表を覚えれば、判定に迷いません。
| グループ | 増えたとき | 減ったとき | 決算書 |
|---|---|---|---|
| 資産 | 借方(左) | 貸方(右) | 貸借対照表 |
| 負債 | 貸方(右) | 借方(左) | 貸借対照表 |
| 純資産 | 貸方(右) | 借方(左) | 貸借対照表 |
| 収益 | 貸方(右) | 借方(左) | 損益計算書 |
| 費用 | 借方(左) | 貸方(右) | 損益計算書 |
覚え方はシンプルです。資産と費用は「増えたら左」。負債・純資産・収益は「増えたら右」。この2行だけで足ります。
迷ったら現金の動きから逆算する
実務では、判断に詰まる取引が必ず出てきます。そのときは、現金や預金の動きを先に確定させてください。
現金は資産です。したがって、増えれば借方、減れば貸方に置きます。片側が決まれば、反対側は自動的に決まります。この逆算は、応用問題でも通用する強い武器です。
勘定科目一覧【5グループ別】実務で使う主要科目
ここでは、経理実務で登場頻度の高い勘定科目を一覧にまとめます。まずはこの範囲を押さえれば、日常業務の大半をカバーできます。
資産・負債・純資産の勘定科目一覧
| グループ | 主な勘定科目 |
|---|---|
| 流動資産 | 現金/当座預金/普通預金/売掛金/受取手形/商品/貯蔵品/前払費用/未収入金/仮払金/立替金 |
| 固定資産 | 建物/機械装置/車両運搬具/工具器具備品/土地/ソフトウェア/のれん/投資有価証券/敷金・保証金 |
| 流動負債 | 買掛金/支払手形/未払金/未払費用/未払法人税等/預り金/仮受金/短期借入金/前受金 |
| 固定負債 | 長期借入金/社債/退職給付引当金/繰延税金負債 |
| 純資産 | 資本金/資本準備金/利益準備金/繰越利益剰余金/自己株式 |
特に間違いが多いのが、売掛金と未収入金の区別です。売掛金は本業の売上に対する債権を指します。一方、固定資産の売却代金などは未収入金で処理します。
収益・費用の勘定科目一覧
| グループ | 主な勘定科目 |
|---|---|
| 収益 | 売上高/受取利息/受取配当金/受取家賃/雑収入/固定資産売却益 |
| 人件費 | 役員報酬/給料手当/賞与/法定福利費/福利厚生費/退職金 |
| 販売費・一般管理費 | 旅費交通費/通信費/消耗品費/地代家賃/水道光熱費/広告宣伝費/支払手数料/接待交際費/会議費/新聞図書費/租税公課/減価償却費/保険料/外注費 |
| 営業外・特別 | 支払利息/為替差損益/固定資産除却損/減損損失 |
費用科目は、会社ごとの運用差が最も大きい領域です。たとえば会議費と接待交際費の線引きは、社内基準で決まっているケースがほとんどです。
勘定科目は「自社のルール」が最終的な正解
ここは、簿記の教科書があまり触れない実務のポイントです。勘定科目には、唯一絶対の正解が存在しません。
たとえば、クラウドサービスの月額利用料を考えます。通信費で処理する会社もあれば、支払手数料や業務委託費に集約する会社もあります。どれも誤りではありません。
大切なのは、期をまたいで処理を揺らさないことです。同じ取引に別の科目を使うと、前年同月比の分析が壊れます。したがって、迷ったら過去の元帳で同じ取引を検索してください。前任者の処理を踏襲するのが、実務では最も安全な判断です。
実務で頻出する仕訳例とつまずきやすいポイント
ここからは、実際の仕訳例を見ていきます。あわせて、経理1〜3年目がつまずきやすい論点も整理します。
売上・仕入・経費精算の仕訳例
掛けで100万円を売り上げた場合は、次のようになります。借方に売掛金1,000,000円、貸方に売上高1,000,000円です。
その後、代金が普通預金に入金されたら、借方に普通預金1,000,000円、貸方に売掛金1,000,000円と記録します。売掛金という資産が減るため、貸方に置く点がポイントです。
また、従業員の立替経費を精算した場合を考えます。借方に旅費交通費、貸方に現金または未払金を計上します。支給が翌月になるなら、いったん未払金で受けるのが一般的です。
消費税とインボイスがからむ仕訳
税抜経理を採用している場合、消費税は仮払消費税等と仮受消費税等で区分します。この区分がないと、申告時に税額を集計できません。
さらに、インボイス制度の開始以降は、相手が適格請求書発行事業者かどうかで控除できる税額が変わります。免税事業者からの仕入れには経過措置が適用されます。詳しい実務対応はインボイス制度の経理実務対応と経過措置|仕訳・2割特例まで解説で整理しています。
なお、国税庁は仕入税額控除の要件として、区分経理に対応した帳簿と請求書等の両方の保存を求めています。仕訳を切って終わりではない点に注意してください。
つまずきやすい3つのポイント
1つ目は、計上タイミングです。企業会計は発生主義が原則になります。つまり、入金日ではなく、役務の提供やモノの引き渡しが完了した日で計上します。
2つ目は、未払金と未払費用の使い分けです。未払金は単発の債務に使います。一方、未払費用は家賃や利息のように継続的な役務に対して使います。
3つ目は、摘要欄の書き方です。「〇〇社 5月分 コンサル費用」のように、相手・期間・内容を残してください。3か月後に元帳を見返す自分と、監査対応をする同僚が救われます。この積み重ねが、月次決算のスケジュールと進め方【早期化7つのコツ】で解説する早期化にも直結します。
仕訳スキルは経理の転職市場でどう評価されるか
最後に、キャリアの視点を加えます。ここは求人紹介の現場で日々感じている、実務的な話です。
「仕訳が切れる」だけでは差がつかない
率直に言えば、仕訳入力そのものは差別化要素になりません。会計ソフトの自動仕訳やAI-OCRが普及し、単純な入力業務は縮小しています。
そのため、求人票で「仕訳経験3年以上」とだけ書かれた案件は、年収レンジが伸びにくい傾向にあります。ここに留まると、市場価値は上がりません。
評価されるのは仕訳の根拠を説明できる人
一方、面接で評価が伸びるのは「なぜその科目を選んだか」を説明できる人です。実際、面接官は具体的な処理を掘り下げてきます。
たとえば「システム導入費用を資産計上と費用処理のどちらにしたか、その判断根拠は何か」といった質問です。会計基準や社内規程に触れながら答えられると、評価は明確に変わります。
簿記資格も同じ構図です。資格の有無より、知識を実務判断に接続できるかが問われます。この点は簿記は意味ない?経理キャリアで簿記が持つ本当の価値と転職での評価でも詳しく解説しました。
年収を上げるなら決算・開示まで範囲を広げる
仕訳を安定して切れるようになったら、次は月次決算の締めに関わってください。さらに、連結・税務・開示のいずれかに手を伸ばすと、応募できる求人の層が変わります。
経理の年収は、担当できる業務範囲でほぼ決まります。つまり、仕訳はスタート地点であって、ゴールではありません。
まとめ|仕訳のやり方は5グループの理解に集約される
仕訳のやり方は、取引の分解・勘定科目の決定・借方貸方の判定という3ステップで整理できます。判定基準は、5グループと増減の対応表だけです。
また、勘定科目に唯一の正解はありません。自社の過去処理に合わせ、期をまたいでも揺らさないことが実務では重要になります。
そのうえで、仕訳の根拠を言語化する習慣をつけてください。その力が、決算・開示へ進むための土台になり、結果として年収にも反映されます。
この記事の一次情報源
- 国税庁 記帳や帳簿等保存・青色申告(パンフレット「暮らしの税情報」)(正規の簿記の原則・帳簿書類の保存期間)
- 国税庁 帳簿の記帳のしかた(事業所得者用)(仕訳帳・総勘定元帳の記載事項)
- 国税庁 タックスアンサー No.5930 帳簿書類等の保存期間(法人の帳簿書類は原則7年、欠損金が生じた事業年度は10年)
- 国税庁 タックスアンサー No.6496 仕入税額控除をするための帳簿及び請求書等の保存(令和7年4月1日現在法令等)
- 国税庁 電子帳簿等保存制度特設サイト(電子取引データの保存要件)
執筆・監修:森岡 祐介(LX Career 代表/管理部門特化キャリアアドバイザー)
経理・財務・人事・法務など管理部門に特化した有料職業紹介事業を運営。上場企業からベンチャーまで、経理職の転職支援と年収交渉を数多く手がける。本記事は公的統計と実際の求人データをもとに作成しています。






