月次決算のスケジュールが延びてしまうのは、担当者の作業スピードの問題ではありません。
※会話は、面談でよくいただくご相談をもとに再構成しています。
今月も、月次報告が第10営業日になってしまいました。もっと急いで作業しないといけないのでしょうか。
LXキャリア
そのご相談は、面談でもよくうかがいます。実は、締めが遅いのは作業の速さより、工程の組み方と他部門との取り決めが原因のことが多いんです。まずは工程表を書き出して、どこで待たされているかを確かめましょう。
たいていの場合、原因は工程の組み方と他部門との取り決めにあります。
この記事では、月次決算のスケジュールを営業日別の工程表まで落として解説します。まず全体像を押さえ、次に進め方をステップごとに確認します。そのうえで、早期化の最大の武器である概算計上と、詰まりやすいボトルネックの外し方まで具体的に整理します。
月次決算とは?年次決算との違いをスケジュールの面から整理
月次決算とは、1か月ごとに会社の経営成績と財政状態をまとめる社内向けの決算です。年次決算が法令上の義務であるのに対し、月次決算はあくまで任意で行われます。
しかし、任意だからこそスケジュールの設計が問われます。締め切りが法律で決まっていないため、放っておくとずるずると遅れていくからです。
月次決算の3つの目的
月次決算の目的は、大きく3つに整理できます。
- 業績の早期把握:経営陣が早い段階で数字を見て、打ち手を決められる
- 年次決算の負担分散:毎月精度を上げておけば、期末の作業が軽くなる
- 予算実績差異の分析:計画とのズレを月単位で発見し、修正できる
とくに1つ目が重要です。なぜなら、報告が遅れるほど数字の価値は下がるからです。第10営業日に届く精緻な数字より、第5営業日に届く概数のほうが、経営判断には役立ちます。
何営業日で締めるのが標準か
実務でよく見られるのは、次の3パターンです。自社がどこにいるかを確認してみてください。
| 日数 | 水準 | 典型的な状態 |
|---|---|---|
| 3営業日 | 早期化が進んでいる | 概算計上を活用し、システム連携も整備済み |
| 5営業日 | 標準的な目標水準 | 工程が定義され、他部門の期日も決まっている |
| 10営業日以上 | 改善の余地が大きい | 確定値を待つ運用で、待ち時間が長い |
まず5営業日を目標に置き、そこが安定してから3営業日を目指すという順序が現実的です。いきなり3営業日を狙うと、精度が落ちて信頼を失いかねません。
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月次決算スケジュールの全体像|営業日別の工程表
ここからは、月次決算のスケジュールを工程表の形で示します。単なる作業リストではなく、誰から何が届けば動けるのかまで書き出すのがポイントです。
5営業日モデルの工程表
| 営業日 | 主な作業 | 必要なインプット(提供元) | 遅れたときの影響 |
|---|---|---|---|
| 1日目 | 売上・仕入の計上、経費精算の締め | 請求データ(営業)/仕入データ(購買)/精算申請(全社) | 以降すべてが後ろ倒しになる |
| 2日目 | 現預金・売掛金・買掛金の残高照合 | 銀行明細/補助元帳(経理内) | 差異の原因追及が翌週にずれ込む |
| 3日目 | 在庫・固定資産・引当金・経過勘定の計上 | 棚卸結果(倉庫・製造)/資産台帳(経理内) | 原価が確定せず粗利が出せない |
| 4日目 | 試算表の作成と増減分析 | 前月試算表・予算データ(経理内) | 異常値の確認時間がなくなる |
| 5日目 | 月次レポート作成と経営会議への報告 | 各部門のコメント(事業部門) | 会議日程そのものが動く |
ここで注目したいのは、右から2列目です。経理の内部だけで完結する工程は、2日目と4日目しかありません。つまり、月次決算のスケジュールは他部門の動きに強く依存しています。
3営業日モデルは何を変えているか
3営業日で締めている会社は、作業を速くしているわけではありません。むしろ、待つのをやめているのが実態です。具体的には、次のような工夫をしています。
- 確定を待たずに概算で計上し、翌月に洗い替える
- 販売管理システムと会計システムを連携させ、転記作業をなくす
- 経費精算の締めを月末より前に設定する
- 棚卸を月末実施ではなく、循環棚卸に切り替える
いずれも、確定値へのこだわりを一段緩めることで成立しています。ここが早期化の本質です。
3営業日で締めている会社は、どうやって速くしているのでしょうか。
LXキャリア
作業を速くしているというより、待つのをやめているんです。たとえば確定を待たずに概算で計上して、翌月に洗い替える。ただ、いきなり3営業日を狙うと精度が落ちるので、まずは5営業日を安定させてくださいね。
まずは5営業日を安定させるところからなんですね。
10営業日かかっている会社に共通すること
一方、10営業日以上かかっている会社にも共通点があります。まず、工程が文書化されていません。次に、他部門の提出期限が決まっていないか、決まっていても守られていません。そして、担当者が「全部揃ってから始める」進め方をしています。
したがって、改善の第一歩は作業の効率化ではありません。工程を書き出し、期日を決めるところから始めるべきです。
月次決算の進め方【ステップ別】
次に、各工程の中身を見ていきます。目的を理解しておくと、どこを削れてどこを削れないかの判断がつきます。
STEP1|費用と収益を漏れなく計上する
最初のステップは、費用と収益の計上です。発生主義にもとづき、当月分をもれなく反映します。とくに未払費用と前払費用の区分は重要になります。
ここでの精度が、月次全体の信頼性を左右します。なぜなら、計上漏れは翌月に二重の歪みを生むからです。当月の利益が過大になり、翌月は過小になります。結果として、傾向が読めない数字になってしまいます。
そこで、毎月発生する費用のチェックリストを作るのが有効です。たとえば家賃・リース料・保守料・顧問料など、定型のものを一覧にしておきましょう。あわせてインボイス制度の経過措置の税区分が正しく設定されているかも、この段階で確認しておくと手戻りが減ります。
STEP2|各勘定の残高を照合する
続いて、勘定残高の照合を行います。預金は銀行明細と、売掛金と買掛金は補助元帳と突き合わせます。
差異が出たら、その場で原因を特定してください。後回しにすると、翌月の差異と混ざって切り分けが難しくなります。つまり、早めの照合は後工程の手戻りを防ぐ投資でもあります。
なお、照合の対象は現預金や債権債務だけではありません。仮払金・仮受金・立替金といった経過勘定も、月次で残高を確認しておきましょう。放置すると、期末に正体不明の残高として残ります。
STEP3|試算表を作成し、増減を分析する
次に、試算表を作成します。そして、前月比と予算比で増減を確認し、異常値を洗い出します。
ここで有効なのが、閾値をあらかじめ決めておく方法です。たとえば「前月比で30%以上、かつ金額で50万円以上の変動があった科目は必ず理由を確認する」といったルールです。こうしておけば、毎月すべての科目を見直す必要がなくなります。
STEP4|経営に届く形でレポートにまとめる
最後に、月次報告としてまとめます。ただし、試算表をそのまま配っても経営判断には使われません。
数字の背景を一言添えることが重要です。「広告宣伝費が前月比40%増。新製品のキャンペーン開始によるもので、予算内」といった具合です。このように、数字と理由をセットで示すと報告の価値が一段上がります。
概算計上の実務|月次早期化の最大の武器
月次決算のスケジュールを縮めるうえで、いちばん効果が大きいのが概算計上です。しかし、正しく運用しないと数字を歪めます。そこで、実務のポイントを整理します。
概算計上とは何か
概算計上とは、金額が確定していない費用を見積額で当月に計上し、翌月に確定額へ置き換える処理です。たとえば、月末までに請求書が届かない外注費が典型です。
確定を待てば、締めは請求書の到着日に引きずられます。一方、概算で計上すれば、経理は自分のスケジュールで動けます。つまり、他部門や取引先への依存を減らせるわけです。
金額基準の決め方
すべての未確定費用を概算計上する必要はありません。むしろ、対象を絞るほうが運用は続きます。基準の決め方には、次のような考え方があります。
- 金額基準:1件あたり◯万円以上のものだけを対象にする
- 影響度基準:月次営業利益の1%以上を動かすものを対象にする
- 科目基準:外注費・広告宣伝費など、変動が大きい科目に限定する
実務では、金額基準と科目基準を組み合わせるのが扱いやすいでしょう。そして、決めた基準は文書に残してください。担当者が変わったときに運用がぶれるのを防げます。
洗い替えの仕訳をセットで設計する
概算計上は、必ず洗い替えとセットで設計します。流れは次のとおりです。
- 当月末:見積額で費用を計上する(借方 外注費/貸方 未払費用)
- 翌月初:同額の反対仕訳で戻す(借方 未払費用/貸方 外注費)
- 請求書到着後:確定額で改めて計上する
そして、ここで大切なのは2の反対仕訳を当月の計上と同時に予約しておくことです。多くの会計システムには、翌月自動で反対仕訳を起こす機能があります。この機能を使えば、戻し忘れによる二重計上を防げます。
概算計上でつまずく3つのパターン
とはいえ、運用がうまくいかない例もあります。頻度の高い3つを挙げます。
- 洗い替えを忘れる:費用が二重に計上され、利益が過小になる。自動化で防げる
- 見積精度が低い:確定額との差が大きく、翌月の数字が乱高下する。差異が続く科目は基準を見直す
- 概算のまま期末を迎える:年次決算で大幅な修正が必要になる。期末月だけは確定値で締める運用にする
とくに3つ目は見落とされがちです。月次と年次では、求められる精度が違うという前提を共有しておきましょう。
月次決算を早期化する7つのコツ
ここからは、現場で効果が出やすい打ち手を7つ紹介します。それぞれ、何が起きているのかとあわせて確認してください。
1. 締め日と提出期限を全部門で共有する
まず着手すべきはこれです。経理の締め日は決まっていても、各部門の提出期限が決まっていない会社は少なくありません。したがって、部門ごとに「何を・いつまでに・誰に」出すのかを明文化します。効果が出るまでの期間は1〜2か月です。
2. 定型仕訳をテンプレート化する
次に、毎月同じ内容の仕訳をテンプレートとして登録します。たとえば家賃・リース料・減価償却費などが該当します。入力時間そのものより、確認や思い出す時間が減る効果のほうが大きくなります。
3. 概算計上を活用する
前章のとおりです。確定を待つ工程が減るため、効果はもっとも大きくなります。ただし、洗い替えの仕組みを同時に整えることが条件です。
4. チェックリストで抜け漏れを防ぐ
さらに、工程表をそのままチェックリストにします。そして、完了時にチェックを入れる運用にしてください。属人的な記憶に頼らなくなるため、担当者の交代にも強くなります。
5. システム間を連携させる
販売管理・購買・経費精算と会計システムをつなぎ、転記をなくします。導入には時間もコストもかかります。しかし、いったん動けば恒久的に効きます。この検討は経理の効率化の進め方とあわせて考えるのが効率的です。
6. 業務を標準化し、属人化を避ける
加えて、手順書を作り複数人が同じ工程を回せる状態にします。なぜなら属人化していると、担当者が休んだ月だけ締めが遅れるからです。つまり、早期化と業務継続性は同じ取り組みの表と裏です。
7. 毎月ボトルネックを見直す
最後に、締めが終わったら振り返りを行います。今月いちばん待たされた工程はどれかを1つだけ特定し、翌月までに手を打ちます。小さな改善の積み重ねが、確実な早期化につながります。
ボトルネック別の対処法
早期化が進まない理由は、会社ごとに違います。よくある4つのケースを見ていきましょう。
他部門の提出が遅れる場合
まず、期限を伝えるだけでは動きません。そこで、締め切りの2営業日前にリマインドを送る運用を組み込みます。加えて、未提出の部門名を月次報告に記載する方法も有効です。ただし、対立を生みやすいため、事前に経営層の合意を取っておきましょう。
在庫の確定を待っている場合
この場合、月末一斉棚卸をやめて循環棚卸に切り替える方法があります。あるいは、システム上の理論在庫で月次を締め、実地棚卸との差異は四半期で調整する運用も考えられます。どちらも、監査対応の要否によって選択が変わります。
経費精算が締まらない場合
まず、締め日を月末から数日前倒しします。たとえば月末締めを25日締めに変更するだけで、1営業日目の作業が大きく軽くなります。そして月末までの数日分を翌月精算にすれば、実務上の支障はほとんどありません。あわせて電子帳簿保存法に沿った領収書データの保存ルールも、この機会に整えておくと二度手間になりません。
一人経理で物理的に回らない場合
一方この場合は、工程を減らす以外に道がありません。まず、月次で本当に必要な精度を経営層と再定義します。次に、優先度の低い分析資料をやめます。そのうえで、記帳代行や決算支援のアウトソースを検討するのが現実的です。
月次決算スキルは転職市場でどう評価されるか
ここからは、キャリアの視点を加えます。求人紹介の現場で日々感じている話です。
「回せる」より「速くした」が評価される
月次決算を安定して回せる人材は、たしかに求められます。しかし、それだけでは差がつきません。なぜなら、経験年数のある経理なら多くの人ができるからです。
むしろ評価されるのは、早期化を主導した経験です。とくにIPO準備企業や成長企業は、この力を強く求めます。上場後は開示スケジュールが固定されるため、締めの速さが直接ものを言うからです。
職務経歴書での書き方
「月次決算業務を担当」とだけ書いた経歴書では、担当範囲が伝わりません。一方、次のような書き方なら担当範囲と成果が一度で伝わります。
- 月次決算を第10営業日から第5営業日に短縮(概算計上の導入と経費精算の締め前倒しによる)
- 工程表と提出期限を全部門と合意し、他部門起因の遅延をゼロにした
- 販売管理システムとの連携を主導し、転記作業を月20時間削減した
このように、施策と結果をセットで示すことが重要です。担当範囲の広げ方については、経理の仕事大全もあわせてご覧ください。年収水準の目安は経理の平均年収で確認できます。
早期化の経験は実績になる
月次決算を回してきましたが、職務経歴書にどう書けば評価されるのか分かりません。
LXキャリア
「月次決算を担当」とだけ書くと、どこまでできるのかが伝わらないんです。たとえば「第10営業日から第5営業日に短縮」のように、施策と結果をセットで書いてみてください。早期化を主導した経験は、それだけで強い材料になりますよ。
締めを速くした経験も、言葉にすれば実績になるんですね。
それなら、月次決算の経験で年収がどのくらいになるのか知りたいです。
LXキャリア
たとえば経理の年収診断なら、担当範囲と保有資格から想定年収の目安が90秒でわかります。そのうえで、早期化の経験をどう伝えるかを一緒に整理しましょう。
まずは自分の現在地を確かめてみます。
月次決算のスケジュールに関するよくある質問
月次決算に法律上の締め切りはありますか?
ありません。なぜなら、月次決算は任意の社内管理手続きだからです。ただし、上場企業やIPO準備企業では、四半期開示から逆算して社内ルールが定められているのが一般的です。
概算計上した数字を経営会議で使ってよいのですか?
結論から言えば問題ありません。ただし、概算である旨と、確定後に修正が入る可能性は必ず伝えてください。前提を共有しないまま数字だけを出すと、後の修正が不信につながります。
月次決算と年次決算で、進め方は変わりますか?
基本的な流れは同じです。ただし、求められる精度が違います。年次決算では概算を残せません。また、税務申告や開示に向けた追加の作業も発生します。詳しい前提は仕訳のやり方と勘定科目一覧もあわせて確認してください。
まとめ:月次決算のスケジュールを味方にする
最後に、要点を整理します。
- まずは5営業日を目標に置き、安定してから3営業日を目指す
- 工程表には作業だけでなく、誰から何が届けば動けるかまで書き出す
- 早期化の本質は作業速度ではなく、確定値を待たない設計にある
- 概算計上は洗い替えとセットで設計し、自動化しておく
- ボトルネックは毎月1つだけ特定し、翌月までに手を打つ
月次決算のスケジュールが安定すると、経理の仕事は「締めるための作業」から「経営に届ける仕事」へ変わります。今日からできる改善を1つ選び、来月の締めでぜひ試してみてください。
この記事の一次情報源
- 中小企業庁「中小企業の会計」(中小企業の会計に関する基本要領ほか):https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/kaikei/
- e-Gov法令検索「会社法」(計算書類の作成・保存に関する規定):https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
- 厚生労働省「職業情報提供サイト(job tag)」会計事務従事者の仕事内容:https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/436
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