「経理はAIでなくなる」という言葉を目にして、不安になっていませんか。この記事は、経理・財務として働く20代・30代の方に向けて書いています。野村総合研究所の原典データをたどりながら、経理のどの業務がAIに代替され、どの業務が残るのかを整理します。さらに、AI時代でも市場価値が下がらない経理になるためのスキルと、職場を見極める基準まで解説します。
なお、こうした不安は経理に限った話ではありません。「就活の教科書」の調査によると、25〜34歳の会社員の54.5%が「AIの普及で将来のキャリアに対して不安を感じている」と回答しています。半数以上が同じ不安を抱えている状況だからこそ、数字の中身を正確に把握しておく価値があります。
なぜ「経理はAIでなくなる」と言われるのか

まず、経理はAIでなくなるという不安の出どころを確認しておきましょう。根拠として引用される調査は、ほぼ1つに集約されます。
野村総研の試算に「経理事務員」は確かに入っている
その調査とは、野村総合研究所が2015年に公表した試算です。英オックスフォード大学のオズボーン准教授らとの共同研究として実施されました。国内601種類の職業について、AIやロボットによる代替確率を算出しています。
結果として、10〜20年後に日本の労働人口の約49%が、技術的にはAI等で代替可能と推計されました。そして「代替可能性が高い100種の職業」の一覧には、たしかに「経理事務員」と「会計監査係員」が含まれています。
「経理はAIでなくなる」の原典には但し書きがある
ここからが本題です。多くの記事は、この100職業リストだけを引用します。しかし原典のニュースリリースには、次の2つの注記が明記されています。
1つ目は「あくまで技術的な代替可能性であり、実際に代替されるかは労働需給を含めた社会環境要因の影響も大きい」という点です。2つ目は「業務の一部分のみをコンピューターが代わりに遂行する確率や可能性については検討していない」という点です。
つまりこの試算は、経理という職業の消滅を予言したものではありません。あくまで「1人分の業務すべてを技術的に代替できる確率が66%以上かどうか」を測った数字です。実務で起きているのは職業の消滅ではなく、タスク単位の置き換えだといえます。
一方で、事務職の需要が減る方向は事実
とはいえ、楽観だけでは危険です。経済産業省が2022年に公表した「未来人材ビジョン」でも、2050年に向けて事務・販売従事者の労働需要は減ると推計されています。逆風であること自体は、否定できません。
AIに置き換わる経理業務と、置き換わらない経理業務

では、経理はAIでなくなると言うとき、実務のどこから削られるのでしょうか。境界線は「判断を含むかどうか」で引けます。
経理がAIでなくなると言われる領域は記帳・照合・転記
まず置き換わるのは、判断を含まない反復作業です。具体的には、請求書の入力、通帳と会計データの突合、経費精算のチェック、部門別集計表の作成などが該当します。
これらはルールが明確で、入力と出力の対応が固定されています。だからこそ、OCRや自動仕訳、RPAが得意とする領域になります。
残るのは判断・説明・交渉を含むタスク
一方で、前提条件そのものを決める仕事は残ります。たとえば、新しい取引の会計処理方針を決める場面です。あるいは、監査法人と論点を詰める場面や、予算未達の要因を事業部長に説明する場面も同様でしょう。
これらの仕事には、社内の事情や過去の経緯、相手の立場といった文脈が絡みます。AIは処理を代行できますが、責任を引き受けることはできません。
制度対応がAI化を後押ししている
もう一つ押さえたいのが制度面です。電子帳簿保存法の改正により、令和6年1月1日以降、電子取引データは電子のまま保存することが原則となりました。紙に出力して保存する宥恕措置は、令和5年末で終了しています。
データが最初から電子で入ってくる以上、その先の処理を自動化しない理由はありません。制度改正は、経理のAI化を実質的に加速させました。
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それでも「経理はAIでなくなる」とならない3つの理由
AI化が進むにもかかわらず、経理の求人は減っていません。理由は大きく3つあります。
理由1:制度が変わるたびに人の判断が必要になる
インボイス制度、電子帳簿保存法、収益認識基準と、経理の前提ルールは数年おきに変わります。ルールが変われば、自動化の設定もやり直しになります。この「作り直す人」だけは、自動化できません。
理由2:多くの企業は自動化以前の段階にいる
AI導入が話題になる一方で、現場ではまだExcelと紙が主役の会社が数多く存在します。とくに中小企業やIPO準備企業では、そもそも業務フローが整理されていません。整理する工程には、必ず人が要ります。
理由3:AI導入を設計できる経理が足りない
ツールを入れれば効率化する、という単純な話ではありません。どの業務を自動化し、どこに人のチェックを残すか。この線引きには、会計知識と業務理解の両方が要ります。そして両方を持つ人材は、今も強く不足しています。
AI時代に価値が上がる経理の4つのスキル
ここからは、具体的に何を身につけるべきかを整理します。優先順位の高い順に並べました。
1. 決算を最後まで締められる実務力
土台になるのは、月次・年次決算を自分で締められる力です。自動化された処理の誤りに気づけるのは、正しい形を知っている人だけです。この力がなければ、AIの出力を検証できません。
2. 管理会計・FP&Aの視点
次に効くのが、数字を経営判断につなげる視点です。予算実績差異の分析、事業部別の採算管理、投資判断のシミュレーションなどが該当します。求人市場でも、この領域は年収レンジが明確に上がります。
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3. システムとデータのリテラシー
会計システムの導入や刷新に関われる経理は、社内でも希少です。ERPの設計思想を理解し、BIツールで自分でデータを取り出せると、評価はさらに上がります。なお、プログラミングまでは必要ありません。
4. 説明する力と巻き込む力
最後は対人スキルです。経理の数字は、事業部門に説明して初めて意味を持ちます。相手が納得する形に翻訳できる経理は、AIがどれだけ進化しても代わりが利きません。
今の職場に残るか、転職するかを見極める基準
スキルの方向性が見えたら、次は環境の話です。同じ年数を過ごしても、職場によって積み上がる経験はまったく違います。
市場価値が下がりやすい職場の3つのサイン
次のような状態が続いているなら、注意が必要です。まず、担当業務が入力と照合だけで固定されている場合。次に、決算の主要論点に一切触れられない場合。そして、システム刷新の予定が何年も出てこない場合です。
これらが重なると、5年後の職務経歴書に書ける内容が増えません。AIに奪われる前に、経験の幅で差がついてしまいます。
経験が積み上がる職場の3つのサイン
逆に、以下の条件がそろう職場は伸びます。決算の主担当を任される機会がある。管理会計や予算編成に関われる。システム導入や業務改善のプロジェクトに呼ばれる。この3つです。
動くなら「型」ができた直後がいい
転職のタイミングとしては、月次決算を一人で回せるようになった直後が有力です。ここを起点に、上場企業の連結決算や管理会計へ広げる選択肢が開きます。逆に、入力業務だけの期間が長引くほど、選べる求人は狭まります。
経理とAIに関するよくある質問
簿記2級は今から取っても意味がありますか
意味はあります。AIの出力を検証する側に回るには、会計の型を頭に入れておく必要があるからです。むしろ自動化が進むほど、検証できる人の価値は上がります。
40代・50代の経理はどう動くべきですか
入力作業の速さで勝負しないことです。制度対応の経験、決算の全体設計、後進の育成といった、年数でしか得られない領域に軸足を移してください。この3つは、若手にもAIにも簡単には真似できません。
未経験から経理を目指すのは今からでは遅いですか
遅くはありませんが、入口の設計は変わりました。入力代行としての採用枠は確実に縮んでいます。そのため、最初から決算補助や管理会計に関われる環境を選ぶことが重要になります。
まとめ:経理はAIでなくなるのではなく、中身が変わる
「経理はAIでなくなる」という話の出どころをたどると、原典は職業の消滅を予言していませんでした。実際に起きているのは、記帳や照合といったタスクが削られ、判断と説明の比重が増えるという変化です。
したがって、いま考えるべきは「経理を続けるかどうか」ではありません。「どの経理経験を積める環境にいるか」です。まずは自分の市場価値がどのレンジにあるかを知ることが、最初の一歩になります。
この記事の一次情報源
- 株式会社野村総合研究所「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」(2015年12月2日)ニュースリリース(PDF)
- 総務省「平成30年版 情報通信白書」職業の変化 該当ページ
- 経済産業省「未来人材ビジョン」(2022年5月)本文(PDF)
- 国税庁「電子帳簿保存法の内容が改正されました」パンフレット(PDF)






