この記事でわかること
・経理 効率化はツール選定ではなく、業務の棚卸しから始めること
・転記・照合・判断の3分類で、自動化できる作業を切り分ける手順
・エクセルを捨てる領域と残す領域の判断軸
・効率化の経験を転職市場でどう見せるか
「経理の効率化を任されたんですが、何から手をつければいいのか分からなくて」
面談でよくうかがう悩みです。そして多くの場合、いきなりツールの比較記事を読み始めています。しかし、その順番では失敗しやすくなります。
そこで本記事では、経理 効率化を3つのステップに分けて整理します。まず業務を測り、次に分類し、最後に優先順位をつけます。ツールを選ぶのは、そのあとです。
なぜツール選定から始めると失敗するのか
効率化の相談で最も多い失敗は、導入したツールが定着しないことです。しかも原因は、たいてい2つに絞られます。
失敗1:どこに時間が使われているかを測っていない
「請求書処理が大変」という感覚だけで着手すると、実際には別の作業が時間を食っていることがあります。したがって、まず測ることが出発点になります。
失敗2:例外処理を残したまま自動化する
もうひとつは、例外を整理しないまま自動化することです。その結果、自動化した仕組みと手作業の二重運用になります。つまり工数はむしろ増えます。
だからこそ、順番が重要になります。ここからは具体的な手順を示します。
失敗3:全部を一度に変えようとする
3つ目は範囲の取りすぎです。経理システム、経費精算、請求書受領を同時に入れ替えようとすると、検証が追いつきません。しかも切替時期が決算と重なれば、業務が止まります。
したがって、着手は1件ずつにしてください。そのうえで、切替のタイミングは繁忙期を外して設計します。3月決算の会社であれば、6月から8月が適しています。
👉 あわせて読みたい:経理の繁忙期はいつ?年間カレンダーと法定期限
【ステップ1】1か月の業務を時間単位で書き出す
まず最初にやることは、記録です。1か月分の業務を、作業名と所要時間で書き出してください。
ここで大切なのは、粒度をそろえることです。たとえば「月次決算」とまとめず、「銀行明細の取り込み」「経費精算の突合」「未払計上」のように分けます。そうすれば、どこに時間が集まっているかが見えます。
なお、正確さより網羅性を優先してください。15分単位の概算で十分です。1か月続ければ、月初と月末の偏りも一緒に見えてきます。
【ステップ2】転記・照合・判断の3つに分類する
次に、書き出した作業へ記号をつけます。とはいえ分類は3つだけです。
| 分類 | 中身 | 自動化のしやすさ |
|---|---|---|
| 転記 | あるデータを別の場所へ移す作業 | 最も容易。システム連携で消せる |
| 照合 | 2つのデータが一致するか確かめる作業 | 条件が定義できれば自動化できる |
| 判断 | 勘定科目の選択、見積り、例外の処理 | 残る。ここが経理の仕事の中心 |
この分類には目的があります。転記と照合に使っている時間の合計が、削減できる上限だからです。逆に判断の時間は、減らすのではなく増やすべき時間になります。
実際に書き出してみると、転記の多さに驚く方が少なくありません。とくに紙の申請書とExcelが併存している職場では、同じ数字を3回入力しているケースもあります。
【ステップ3】削減効果の大きい順に並べ替える
そして最後に優先順位をつけます。判断軸は2つです。まず削減できる時間の大きさ、次に着手の容易さです。
| 優先度 | 条件 | 例 |
|---|---|---|
| 最優先 | 時間が大きく、着手も容易 | 銀行明細の自動取込、定型仕訳のルール化 |
| 次点 | 時間は大きいが、他部門の協力が要る | 経費精算の電子化、請求書の受領方法の統一 |
| 後回し | 時間は小さいが、着手は容易 | 帳票のフォーマット整理 |
| 保留 | 時間が小さく、調整も必要 | 例外的な取引の処理フロー |
ここで注意点があります。最初の1件は、必ず「最優先」から選んでください。なぜなら、目に見える成果が出ないと2件目の承認が下りにくくなるからです。
自動化しやすい業務・しにくい業務
3分類を実際の経理業務にあてはめると、着手すべき順番がはっきりします。代表的な業務を並べてみましょう。
| 業務 | 分類 | 自動化の可否と条件 |
|---|---|---|
| 銀行明細の取込 | 転記 | ほぼ自動化できる。会計ソフトの標準機能で足りる場合が多い |
| 定型仕訳の起票 | 転記 | 自動仕訳ルールを登録すれば消せる |
| 経費精算の突合 | 照合 | 申請の電子化が前提。紙が混じると効果が半減する |
| 請求書の受領と登録 | 転記・照合 | 受領方法を1つに統一できるかが分かれ目 |
| 残高の照合 | 照合 | 一致条件が定義できれば自動化できる |
| 勘定科目の判断 | 判断 | 候補の提示までは可能。最終判断は残る |
| 引当金の見積り | 判断 | 前提の置き方そのものが仕事。自動化しない |
| 監査法人への説明 | 判断 | 資料作成は軽くできるが、説明は人が行う |
この表で注目したいのは、照合の欄に条件が並んでいる点です。つまり照合の自動化は、その前工程が電子化されているかどうかに依存します。だからこそ、受領方法や申請方法の統一が先になります。
削減効果は年間の時間に換算する
提案を通すには、効果を金額ではなく時間で示すほうが確実です。金額に直すと単価の議論になり、話が止まりやすいためです。
計算はごく単純です。たとえば月20時間の作業を6時間に減らせるなら、削減は月14時間になります。年間では168時間です。これを「担当者1人の1か月分に相当する」と説明すれば、規模感が伝わります。
さらに、削減した時間を何に使うかまで書いてください。空いた時間を分析や制度対応に回すという道筋があれば、投資として説明しやすくなります。
脱エクセルの判断軸|捨てる領域と残す領域
効率化の文脈では「脱エクセル」がよく語られます。しかし、すべてを捨てる必要はありません。向き不向きで切り分けてください。
| エクセルを捨てるべき領域 | エクセルを残してよい領域 |
|---|---|
| 複数人が同時に更新する台帳 | 一人で完結する試算や分析 |
| 証憑と紐づけて保存が必要なデータ | その場限りのシミュレーション |
| 毎月同じ手順で作り直している集計表 | 経営層への説明用の資料づくり |
つまり判断のポイントは、更新する人数と保存の必要性です。一人で使い捨てにするならエクセルで構いません。反対に、複数人が触るものや保存義務があるものは、システムに載せるべきです。
効率化の経験は、市場価値にどう反映されるのか
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ツールは「連携方式」と「例外の逃がし方」で選ぶ
優先順位が決まったら、ようやくツールの検討に入ります。ただし、ここでも比較すべき軸は限られています。
軸1:会計システムとどうつながるか
APIで直接つながるのか、CSVを書き出して取り込むのかを確認してください。CSV連携の場合、ファイルを作る作業と取り込む作業が新たに発生します。つまり転記が形を変えて残ります。
軸2:例外をどこで処理できるか
経理の業務には必ず例外が出ます。したがって、標準フローから外れた取引をどう扱えるかが重要になります。管理画面で個別に修正できるか、それとも一度取り消して入れ直すのかを、導入前に必ず確認しましょう。
軸3:他部門の操作が増えないか
経理の工数が減っても、営業部門の入力が増えれば定着しません。実際、経理の残業は経理以外の部署の運用に強く左右されます。そのため、社内説明の負荷まで含めて判断してください。
制度対応は効率化の入口になる
効率化の予算が下りないと悩む方は多くいらっしゃいます。そこで有効なのが、制度対応を入口にする方法です。つまり別の名目で同じ投資を通します。
電子帳簿保存法とインボイス制度への対応は、いずれも取引データの持ち方そのものに関わります。つまり制度対応の検討と、業務の電子化の検討は同じ作業になります。だからこそ、単独では通りにくい投資も、制度対応の名目なら承認されやすくなります。
👉 あわせて読みたい:電子帳簿保存法をわかりやすく解説|経理実務の対応ポイント/インボイス制度の経理実務|2026年10月の経過措置70%と仕訳を解説
【実数】なぜいま効率化が急がれるのか
あわせて背景も数字で押さえておきましょう。なぜなら効率化を提案するとき、社内を説得する材料になるからです。
| 指標 | 実数 | 出典 |
|---|---|---|
| 会計事務従事者の平均年齢 | 44.0歳(労働者数466,030人) | 令和7年賃金構造基本統計調査 |
| 同・超過実労働時間数(1,000人以上) | 月10時間(10〜99人は月5時間) | 同上 |
| 年次有給休暇の取得率 | 66.9%(昭和59年以降で最高) | 令和7年就労条件総合調査 |
| 所定外労働時間指数 | 106.6(2018年は117.5) | 毎月勤労統計調査 2025年分確報 |
所定外労働時間指数は2020年平均=100、事業所規模5人以上・調査産業計・就業形態計。
ここから読み取れることが2つあります。まず残業は長期的に減っており、休暇の取得率は上がっています。つまり、同じ仕事量を短い時間で回すことが前提になりつつあります。
次に、規模が大きい会社ほど残業が長い点です。1,000人以上の企業は月10時間、10〜99人は月5時間でした。したがって効率化の余地は、大企業のほうが大きいといえます。
👉 あわせて読みたい:経理の残業は多い?公的統計の月8時間とその限界/経理の繁忙期はいつ?年間カレンダーと法定期限
属人化を解くことも効率化に含まれる
効率化というとシステムの話になりがちです。しかし、投資なしで効く打ち手もあります。属人化の解消です。
「この処理は前任者しか知らない」という状態が残っていると、繁忙期に分担できません。その結果、特定の人だけが遅くまで残ることになります。つまり総工数は同じでも、時間の集中度が上がります。
対策は手順書の整備です。ただし完璧な文書を目指さないでください。むしろ画面のスクリーンショットと注意点だけを箇条書きにするほうが、更新が続きます。そして更新の担当を決めておきましょう。
効率化の経験は転職市場でどう評価されるか
ここは面談でも必ずお伝えしている点です。実は効率化の経験は、いま経理の求人で最も差がつく要素のひとつになっています。
語るべきは「削減した時間」の数字
職務経歴書で「業務改善に取り組んだ」とだけ書く方が多くいらっしゃいます。しかし、それでは読み手が評価できません。
| 伝わりにくい書き方 | 伝わる書き方 |
|---|---|
| 業務改善に取り組んだ | 経費精算の電子化により、月次の突合作業を月20時間から6時間に短縮した |
| システムを導入した | 会計システムの入替を、要件定義から本稼働まで担当者として推進した |
| 月次決算を早期化した | 月次決算の確定を第10営業日から第5営業日へ前倒しした |
数字がなければ、書き出しの記録から復元してください。ステップ1で測っておけば、この段階で使えます。つまり棚卸しは、効率化のためだけの作業ではありません。
👉 あわせて読みたい:経理の職務経歴書 書き方|通過率を上げる5つのコア要素と例文/転職前に身につけておくべき経理スキル5選
経理の効率化に関するよくある質問
Q1. 担当者の立場でも効率化を進められますか
進められます。むしろ、どこに時間が使われているかを最も正確に知っているのは担当者です。まずは自分の作業だけで棚卸しを行い、1件の成果を出してから範囲を広げてください。
Q2. 予算がない場合はどうすればよいですか
まず、費用のかからない範囲から始めましょう。締め切りルールの明文化や手順書の整備は、投資なしで効果が出ます。そのうえで、制度対応を入口に予算を確保する方法があります。
Q3. AIで経理の仕事はなくなりますか
自動化されるのは転記と照合であり、判断は残ります。前掲の3分類でいえば、消えるのは上の2つです。したがって、判断に使う時間を増やせる人ほど市場価値が上がります。
👉 あわせて読みたい:経理はAIに仕事を奪われる?将来性の現実と生き残り方
Q4. 効率化を進めると人員が減らされませんか
会計事務従事者の平均年齢は44.0歳であり、多くの職場で採用そのものが難しくなっています。そのため、効率化の目的は人員削減より欠員への備えである場合がほとんどです。実際、当社が扱う求人でも増員より欠員補充が中心になっています。
Q5. 効率化の提案が上長に通りません
多くの場合、提案が抽象的なことが原因です。そこで「どの作業が」「月何時間かかっていて」「何時間に減るか」の3点だけに絞ってください。加えて、削減した時間の使い道まで書いておくと通りやすくなります。
Q6. 小さな会社でも効率化はできますか
できます。むしろ小規模な会社ほど、承認の手数が少なく着手しやすい面があります。ただし統計上は、10〜99人の企業の超過実労働時間は月5時間であり、1,000人以上の月10時間より短くなっています。したがって、削減できる時間の総量そのものは小さくなります。
Q7. どのツールがおすすめですか
当社は特定の製品を推奨する立場にありません。そのかわり、前掲の3つの軸で比較することをおすすめしています。すなわち会計システムとの連携方式、例外の逃がし方、そして他部門の操作量です。この3つで絞れば、候補はかなり少なくなります。
まとめ|経理の効率化は測ることから始まる
経理 効率化の順番は、測る・分類する・並べ替えるの3つです。ツールを選ぶのは、そのあとで構いません。
分類は転記・照合・判断の3つだけで足ります。転記と照合に使っている時間が、削減できる上限になります。そして判断の時間は、減らすのではなく増やすべき時間です。
最後にもうひとつ。棚卸しの記録は、職務経歴書でそのまま使えます。だからこそ、効率化への着手はキャリアへの投資でもあります。まずは1か月の記録から始めてみてください。
👉 あわせて読みたい:月次決算のスケジュールと進め方【早期化7つのコツ】/経理の仕事大全|業務内容・年収・残業・資格を実数で総覧
📌 この記事の一次情報源
- 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」職種(小分類)第1表(会計事務従事者の平均年齢・労働者数・超過実労働時間数。令和7年6月分)
- 厚生労働省「令和7年就労条件総合調査」第5表(年次有給休暇の取得状況)
- 厚生労働省「毎月勤労統計調査 2025(令和7)年分結果確報」時系列表第2表(労働時間指数)
- 国税庁「電子帳簿保存法関係」(電子取引データの保存と要件)
- 当社が2026年に実施した経理・管理部門候補者との面談記録および求人企業ヒアリング記録
