経理の効率化を進めたい。そう考えていても、何から手をつけるべきか迷う方は多いはずです。
ツールを入れれば解決するわけではありません。実際、順番を間違えると現場の負担だけが増えます。
この記事では、経理の効率化を「業務の棚卸し→脱エクセル→自動化」の順で進める手順を整理します。さらに、自動化しやすい業務の見極め方と、効率化の推進経験が転職市場でどう評価されるかまで解説します。経理1〜10年目の実務担当者に向けた内容です。
経理の効率化が急務になった3つの背景
まず、なぜ今これほど効率化が求められるのかを確認します。背景を押さえると、手をつける順番が見えてきます。
制度対応で取引データが電子化された
2024年1月以降、電子取引で受け取った請求書や領収書は、電子データのまま保存することが原則になりました。紙に印刷して保存するだけでは要件を満たしません。
つまり、経理の手元には最初からデータが届いています。それをわざわざ紙に出し、目視で確認する運用は、制度の前提とずれています。
人手不足で一人あたりの業務量が増えた
一方、経理の採用は難化しています。欠員が出ても、補充までに数か月かかる企業は珍しくありません。
そのため、残った担当者に業務が集中します。効率化は「余裕があればやること」ではなく、業務を回すための前提条件になりました。
決算早期化への要求が強まった
さらに、経営側は月次数値をより早く求めます。意思決定のスピードが競争力に直結するためです。
ところが、転記と照合に時間を取られると、締めは早まりません。ここが効率化の主戦場になります。月次の締め方そのものは月次決算のスケジュールと進め方【早期化7つのコツ】で詳しく整理しました。
経理 効率化の進め方|棚卸しから優先順位づけまで
次に、実際の進め方を示します。ツール選定は最後です。この順番を守ってください。
ステップ1:1か月の業務を時間単位で書き出す
最初にやるのは、ツールの比較ではありません。自分の1か月をすべて書き出す作業です。
日次・月次・年次に分け、それぞれ何時間かかっているかを記録します。1週間も続ければ、感覚と実態のズレがはっきりします。
ステップ2:転記・照合・確認依頼に印をつける
書き出したら、「転記」「照合」「確認依頼」に当たる作業へ印をつけます。この3つが、経理で最も削れる領域です。
たとえば、システムから出力した数値をエクセルへ貼り直す作業。あるいは、2つの資料を目で突き合わせる作業。いずれも判断を含まないため、置き換えが効きます。
ステップ3:削減効果の大きい順に並べ替える
そのうえで、「年間の削減時間 ÷ 導入の手間」で順位をつけます。金額ではなく時間で測るのがコツです。
月に10時間かかる作業を半減できれば、年60時間が浮きます。この数字が、上長を説得する材料になります。
よくある失敗①:ツール選定から始めてしまう
最も多い失敗は、棚卸しを飛ばしてツールを比較することです。結果として、使わない機能に費用を払い続けます。
導入前に「どの作業の何時間を減らすか」を1行で書けるか確かめてください。書けないなら、まだ選定の段階ではありません。
よくある失敗②:例外処理を残したまま自動化する
もう1つは、既存の例外ルールをそのまま持ち込むケースです。例外が多いほど設定は複雑になり、運用は破綻します。
そこで、自動化の前に業務ルール自体を見直します。「締め後の申請は翌月扱い」といった単純化が、効果を大きく左右します。
脱エクセルの判断軸|捨てる領域と残す領域
脱エクセルという言葉は、しばしば誤解されます。すべてを捨てる必要はありません。
エクセルを捨てるべき3つの領域
捨てるべきなのは、次の3つです。第一に、複数人が同時に触る台帳。第二に、毎月まったく同じ加工を繰り返す集計表。第三に、他システムの数値を手で転記しているシートです。
いずれも、バージョン違いや転記ミスが起きます。しかも、監査対応のたびに説明へ時間を取られます。
エクセルを残していい2つの領域
反対に、残してよい領域もあります。1つは単発の分析やシミュレーション、もう1つはまだ型が固まっていない試行段階の資料です。
柔軟性が要る場面では、エクセルが最速です。要するに、定型業務から外し、非定型の道具として使い分けます。
経理 DXで自動化しやすい業務・しにくい業務
続いて、自動化の当たりをつける基準を示します。ここを外すと、投資が回収できません。
自動化しやすいのは判断が不要な定型業務
自動化と相性がいいのは、ルールが一意に決まる業務です。具体的には、経費精算の申請と承認、請求書の受領と仕訳起票、入金消込、給与データの取り込みが挙げられます。
これらは条件分岐が少なく、例外も限定的です。したがって、導入の初期段階でも効果が出ます。
自動化しにくいのは例外処理と見積り
逆に、引当金の見積り、税務判断を伴う処理、契約内容の解釈が必要な収益認識は自動化が困難です。
これらは会計基準と自社の状況を突き合わせる作業だからです。つまり、人が担う価値が残る領域でもあります。技術と職域の関係は経理はAIに仕事を奪われる?将来性の現実と生き残り方で詳述しました。
ツールは連携方式と例外の逃がし方で選ぶ
ツールを選ぶ際は、機能一覧より2点を確認してください。1つは既存の会計ソフトと連携できるか、もう1つは例外が出たときに手動で処理できる導線があるかです。
また、電子帳簿保存法の要件を満たす保存機能があるかも必ず見ます。制度そのものの整理は電子帳簿保存法をわかりやすく解説|経理実務の対応ポイントをご覧ください。
効率化の推進経験は転職市場でどう評価されるか
ここからはキャリアの話です。求人紹介の現場で見えている変化をお伝えします。
求人票に「業務改善」「システム導入」が並ぶようになった
近年、経理の求人票には歓迎要件として「業務改善経験」「会計システムの導入経験」が並ぶようになりました。とくに成長企業やIPO準備企業で目立ちます。
背景には、人を増やさずに管理部門を回したいという事情があります。そのため、仕組みをつくれる人の希少価値が上がっています。
面接で語るべきは削減した時間の数字
ただし、「効率化を頑張りました」だけでは評価が伸びません。面接官が知りたいのは、規模と再現性です。
「請求書処理を月40時間から15時間へ減らした」「その手順を3拠点へ展開した」。このように数字で語れると、提示年収が変わります。しかも、ステップ1の棚卸し記録が、そのまま職務経歴書の材料になります。
まとめ|経理 効率化は棚卸しと優先順位づけで決まる
経理の効率化は、ツール選定から始めると失敗します。まず1か月の業務を書き出し、転記・照合・確認依頼に印をつけてください。
そのうえで、削減時間の大きい順に着手します。脱エクセルは全廃ではなく、定型業務から外す取り組みだと捉えると判断が楽になります。
さらに、削減した時間を数字で記録しておきましょう。その記録は社内の説得材料になり、同時に転職市場での評価にも直結します。
この記事の一次情報源
本記事の制度に関する記述は、以下の公的資料にもとづいています。
- 国税庁 電子帳簿等保存制度特設サイト(電子取引データの保存義務・要件)
- 国税庁 電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(電子データのまま保存する原則)
- 国税庁 インボイス制度特設サイト(適格請求書の記載事項・保存要件)
- 経済産業省 中堅・中小企業等向けDX推進の手引き2025(デジタル化とDXの段階整理)
執筆・監修:森岡 祐介(LX Career 代表/管理部門特化キャリアアドバイザー)
経理・財務・人事・法務など管理部門に特化した有料職業紹介事業を運営。上場企業からベンチャーまで、経理職の転職支援と年収交渉を数多く手がける。本記事は公的資料と実際の求人データをもとに作成しています。






