「IPO準備の経理に行けば、市場価値は上がるはずだ」
上場準備企業への転職を考えるとき、多くの方がそう考えます。実際、その見立て自体は間違っていません。ただし、入った会社で本当に上場準備が進むかどうかは、また別の話です。
この記事でわかること
- IPO件数が減るなかで、経理の求人がどう変化しているか
- 上場準備フェーズで求められるスキルと年収レンジ
- 準備が先送りされる例から考える、上場準備企業の見極め方
- 上場を達成した人が、次に何を考えるか
本記事は、経理 IPO 転職を視野に入れる20代・30代・40代向けです。求められるスキルと年収相場を整理したうえで、実際に面談でうかがった当事者の話を交えて、企業の見極め方を解説します。
※会話は、面談でよくいただくご相談をもとに再構成しています。
上場準備の会社に行けば経験が積めると思っていたのですが、最近は上場も簡単ではないと聞いて迷っています。
LXキャリア
そのご相談は、面談でもよくうかがいます。たしかに最近は、上場もなかなか厳しくなってきているんです。ただ、上場準備の経験を持つ人の需要そのものが落ちたわけではありません。そこでこの記事では、市場の変化と企業の見極め方を順に整理しますね。
経理 IPO 転職の市場はいま、どう変化しているか
まず前提を正確にしておきます。国内のIPO件数は、ここ数年で明確に減少しています。つまり「上場準備企業が増え続けているから求人も増えている」という説明は、現在の市場では正しくありません。
それでも、上場準備の経理経験を持つ人材の需要は落ちていません。理由は、需要の出どころが変わったからです。
変化1:上場準備そのものの求人は絞られた
IPOを目指す企業の数が減れば、当然ながらN-2・N-1フェーズの求人も絞られます。加えて、上場のタイミングを延期する企業も増えました。その結果、「上場準備の経験を積みたい」という動機だけで入社すると、期待した経験が積めないリスクが高まっています。
変化2:M&A後の子会社と、カーブアウト案件が増えた
一方で伸びているのが、上場以外の出口に伴う求人です。具体的には、大手に買収された子会社の管理体制の立て直しと、大企業から事業部門が切り出されるカーブアウト案件です。
カーブアウトでは、バックオフィスを一から作り直す必要があります。親会社の仕組みを使えなくなるため、経理・決算・内部統制をゼロから設計する人材が求められます。求められるスキルは、上場準備とかなり近い領域です。
ただし、この種の求人はほとんど公開されません。案件そのものが秘匿性の高い局面で発生するためです。
変化3:CFO層に「数字を作る力」が求められ始めた
もう一つの変化が、CFOに期待される役割の拡大です。従来のように守りの財務管理だけを担うのではなく、経営企画をCFOが管掌するケースが増えています。
決算を締める力があれば、将来はCFOも目指せるのでしょうか。
LXキャリア
そこは少し変わってきているんです。たとえば最近は、守りの財務だけでなく、売上や収益を作る役割がCFOに求められるようになっています。だから、バックオフィスにいながら事業側を理解して寄り添える人が評価されやすいんですよ。
事業側の数字まで動かした経験が、次の段階につながるんですね。
つまりIPO準備企業でのキャリアは、決算を締める力だけでは頭打ちになります。事業側の数字を動かす経験まで含めて設計する必要があります。
面談現場から:IPO準備企業に入って、実際に起きたこと
ここからは、当社の面談でうかがった話をもとに紹介します。求人票からは見えない部分です。掲載にあたり、個人が特定されないよう内容を一般化しています。
上場準備が何度も先送りされた──上場準備が進まないという失敗
面談でよくうかがうのが、上場準備企業に移ったものの、上場が先送りされたという話です。規程整備や監査法人対応など、上場準備の実務は一通り経験できた。それでも事業が計画どおりに伸びず、上場準備の段階を繰り返すことになった、というものです。
ここが重要な点です。上場準備が止まる原因は、経理体制の不備ではありませんでした。事業の成長が計画に届かなかったからです。
つまり経理として上場準備企業を選ぶとき、見るべきは経理体制の整備状況だけではありません。その会社の売上が本当に伸びる構造になっているかを、自分で判断する必要があります。
強みが最も活きるフェーズは、想像より手前にある
それなら、上場が近い会社を選んだほうが安全ではないでしょうか。
LXキャリア
何を経験したいかによるんです。たとえば上場準備に関わってきた方は、ルールを一から作っていくほうが面白いと感じることが多いんですよ。その場合は、上場準備がまだ初期で、体制をゼロから設計できる段階のほうが作る余地は大きくなります。
安全さより、自分が何を作りたいかで選ぶんですね。
N-1に近い企業は、すでに仕組みが出来上がっています。だから作る余地が少なく、運用に回る比重が高くなります。一方でN-3〜N-2の初期段階なら、会計体制をゼロから設計できます。
「上場が確実に近い会社ほど良い」とは限りません。何を経験したいかによって、狙うべきフェーズは変わります。
上場を達成した人は、次に何を考えるか
準備の途中で入社し、実際に上場まで到達した方です。その後も、上場企業としての決算業務を担当されていました。
この方が転職を考えた理由は、ネガティブなものではありませんでした。
上場を目指すという役割を果たし、この会社ではやり切ったという手応えがあったそうです。
興味深いのは体制の実態です。この会社では、上場準備をごく少人数の経理と外部の会計事務所で回していました。
上場企業だから経理体制が整っている、とは限りません。逆に言えば、少人数だからこそ幅広い工程に関与でき、経験の密度は上がります。
この方は次のキャリアとして、上場準備企業への再挑戦を考えていました。上場まで走り切った経験は、次の会社で体制を作る側に回るときの土台になります。
経理 IPO 転職に求められる5つのスキル
上場準備フェーズで評価されるスキルを5つ紹介します。求人票・面接・実務のいずれでも重視される項目です。
スキル1:決算開示・有価証券報告書の作成経験
上場後の四半期決算では、開示資料の作成が必須になります。決算短信、有価証券報告書、適時開示書類と、整備すべき書類は多岐にわたります。
そのためIPO準備企業は、開示経験者を高く評価します。とくに上場企業の経理出身者や、監査法人出身者が重宝されます。
スキル2:連結決算・連結パッケージの実務経験
子会社を持つ企業では、連結決算の構築が重要テーマになります。連結パッケージの設計、会計方針の統一、連結消去仕訳の理解が求められます。
実務経験者は希少なため、即戦力として歓迎されます。
▶ あわせて読みたい:連結決算経験者の転職、狙い目の企業と年収レンジ
スキル3:内部統制(J-SOX)対応の知見
上場企業はJ-SOX対応が義務づけられています。財務報告に係る内部統制を整備し、文書化と評価まで行う必要があります。
これらのプロセスを設計・運用できる人材は、経理 IPO 転職市場で強く求められます。
スキル4:監査法人対応のコミュニケーション能力
IPO準備期間中は、監査法人との折衝が日常的に発生します。論点整理、ドキュメント準備、会計処理の合意形成が主な業務です。
論理的かつ円滑に対応できる人材は、上場プロセス全体を進めるキーパーソンになります。
スキル5:会計システム導入・経理オペレーション設計
IPO準備フェーズでは、ERPへの移行を進める企業が多くあります。クラウド会計からOracle NetSuiteやSAPへ移行する例が典型です。
会計システムの選定・導入・運用設計の経験は、とくにCFO直下のポジションで評価されます。
経理 IPO 転職の年収レンジ|役割別の相場
続いて年収を整理します。役割別の一般的なレンジを、目安として紹介します。
| 役割 | 主な年代 | 年収レンジ |
|---|---|---|
| 実務担当者層 | 20代後半〜30代前半 | 約550万円〜800万円 |
| マネージャー候補・経理リーダー | 30代中盤〜 | 約800万円〜1,200万円 |
| CFO直下の経営管理担当 | 30代後半〜40代 | 約1,000万円〜1,500万円超 |
※求人票ベースの目安です。ストックオプションを含めるとさらに上振れする場合があります。
実務担当者層(20代後半〜30代前半)
連結決算や開示資料作成、税務申告を担う実務ポジションです。上場後の経理体制への移行を支える役割になります。簿記2級以上の保有が望ましく、上場企業での経理経験が3年以上あると評価されやすい傾向です。
マネージャー候補・経理リーダー層(30代中盤〜)
IPO準備のリーダーを担うポジションです。経理体制の構築、監査法人折衝、決算早期化の推進が中心業務になります。上場企業の経理マネージャー経験者や、監査法人スタッフ出身者が主なターゲットです。
CFO直下の経営管理担当(30代後半〜40代)
経理だけでなく経営管理も担い、資金調達やIR対応まで範囲に含まれます。ストックオプションのウエイトも大きくなります。USCPA・公認会計士・MBA保有者が中心の層です。
なお前述のとおり、この層では「守りの財務管理」に加えて事業計画や予算を動かす力が問われ始めています。管理会計の経験があると、選考で有利に働きます。
▶ あわせて読みたい:管理会計ができる経理の市場価値と年収相場
IPO準備企業を見極める4つのチェックポイント
経理 IPO 転職は魅力的です。一方で、上場準備が頓挫したり延期されたりするリスクも伴います。転職前に確認したい4点を紹介します。
チェック1:事業計画の確度と、売上が伸びる構造かどうか
最も重要なのがここです。前述のとおり、上場準備が止まる主因は経理体制ではなく事業の成長鈍化です。だから面接では、直近の売上進捗と計画との差を必ず確認してください。
あわせて、その事業が労働集約型かどうかも見ておきます。人を増やさないと売上が伸びない構造の場合、上場に必要な成長率を維持しにくくなります。
チェック2:直近の資金調達ラウンドとバーンレート
シリーズC以降の調達を完了している企業は、上場準備を進める体力があると判断できます。反対に、調達直後でもバーンレートが高すぎる企業は要注意です。上場前にキャッシュが尽きるリスクがあります。
決算公告や事業計画資料を確認し、面接ではCFOに直接ヒアリングしましょう。
チェック3:主幹事証券・監査法人の選定状況
主幹事証券と監査法人が決定済みの企業は、準備が具体化しているサインです。逆にこれらが未定の場合、上場時期が後ろにずれる可能性があります。
ただし、監査法人を探している段階の企業が悪いわけではありません。ゼロから体制を作りたい人にとっては、むしろ狙い目のフェーズです。自分の目的次第で評価は変わります。
チェック4:IPO推進体制と社外取締役の充実度
CFOや経理マネージャーの体制が揃っているか、社外取締役が選任されているかを確認します。とくに上場経験のあるCFOが在籍していると、プロセスが進みやすくなります。
経理 IPO 転職のメリット・デメリットを整理
意思決定の前に、両面を理解しておきましょう。
メリット:希少経験・市場価値の高さ・ストックオプション
IPO経験は経理キャリアで非常に希少です。上場を経験した人材はその後の転職市場でも有利になり、年収アップの可能性も高まります。さらにストックオプションの権利行使益も期待できます。
デメリット:業務負荷の高さ・上場が実現しないリスク
上場準備期間中は、決算早期化・監査対応・開示資料作成が同時並行で進みます。通常の事業会社経理より業務負荷は高くなります。
そして最大のリスクが、上場そのものが実現しない可能性です。前述のとおり、N-2を繰り返す企業は実在します。ただし、その場合でも規程整備や監査法人対応の経験は残ります。上場の可否だけで経験価値がゼロになるわけではありません。
経理 IPO 転職を成功させる3つのステップ
ステップ1:自分のスキルとIPOフェーズのマッチング確認
IPO準備は前半と後半で求められるスキルが異なります。前半のN-3〜N-2は体制構築と内部統制設計が中心です。後半のN-1〜上場直前は、決算早期化と開示資料作成、監査対応が中心になります。
自分の経験と志向がどちらに合うかを、応募前に整理しておきましょう。
ステップ2:複数社の選考を並行して受ける
選考プロセスは企業ごとに異なります。3〜5社を並行して受けると、相場感の把握とオファー比較がしやすくなります。CFOとの面談機会は積極的に活用してください。
ステップ3:非公開の案件も含めて情報を集める
前述のカーブアウト案件や、買収後の子会社の体制立て直しは、ほとんど公開求人になりません。実際に、業務委託として関与を始め、その後に正社員へ切り替わったケースもあります。
だから求人サイトの検索だけで判断せず、非公開情報を扱うエージェントを併用することをおすすめします。ストックオプションの行使条件や入社タイミングの調整も、専門のエージェントを介したほうが進めやすくなります。
▶ あわせて読みたい:経理 転職エージェント 比較|30代中堅向け10社
まずは、いまの経験で上場準備企業に移ると、年収がどのくらいになるのか知りたいです。
LXキャリア
たとえば経理の年収診断なら、担当範囲と保有資格から想定年収の目安が90秒でわかります。そのうえで、体制を作りたいのか運用したいのかを整理して、狙うフェーズを一緒に決めましょう。
まずは自分の現在地を確かめてみます。
まとめ:フェーズと事業構造を見れば、失敗は減らせる
経理 IPO 転職は、上場企業水準のスキルを短期間で身につけられる希少な機会です。年収やストックオプションだけでなく、市場価値を押し上げるキャリア投資としても有効です。
一方で、上場が実現しないリスクは現実に存在します。上場準備が先送りされる例が示すとおり、止まる原因は経理体制ではなく事業側にあります。だから見極めるべきは、経理の整備状況よりも事業が伸びる構造かどうかです。
そのうえで、自分が体制を作りたいのか、出来上がった仕組みを運用したいのかを決めてください。狙うべきフェーズは、その答えによって変わります。
経理・財務に特化したアドバイザーが、IPO企業の選び方から年収交渉までサポートします
この記事の一次情報源
- 当社(株式会社LX)が2026年に実施した、経理・財務職の転職相談面談。上場準備企業の経験者を含む複数名。掲載にあたり氏名・企業名を伏せ、個人が特定されないよう内容を一般化しています。
- 当社が採用担当者・CFOから直接うかがった、経理採用の要件と提示年収レンジ(2026年時点)。
- 日本取引所グループ「新規上場会社数の推移」https://www.jpx.co.jp/listing/co/index.html
- 金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kigyou/kijun/20230407.html
