この記事でわかること
・「簿記は意味ない」と言われる3つの理由を、事実と誤解に分けて検証する
・2025年度に簿記検定を受けた人は1〜3級の合計で508,159名という実数
・独占業務がない資格でも価値が生まれる仕組みと、逆に価値が生まれない条件
・面談で見た、資格が処遇を動かした例と動かさなかった例
※会話は、面談でよくいただくご相談をもとに再構成しています。
簿記って、取っても意味ないって言われますよね。勉強を始める前から不安になってしまって。
LXキャリア
そのご相談は、面談でもよくうかがいます。勉強に踏み出す前に不安になるのは自然なことなんです。そこでこの記事では、「簿記は意味ない」という主張を3つの理由に分解して、公表されている実数で検証しますね。
結論を先に述べます。簿記は意味ないという言葉は、半分は事実で半分は誤解です。ただし「意味がない状態」に陥る条件は、はっきり特定できます。
なお、簿記2級が転職市場でどう評価されるかという論点は、別記事に集約しています。
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「簿記は意味ない」と言われる3つの理由
まず、否定的な意見がどこから生まれているのかを整理します。ほとんどが次の3つに収まります。
理由1:独占業務がないから
公認会計士や税理士と違い、簿記がなければできない仕事はありません。つまり法律で守られた業務範囲を持ちません。そのため「必須ではないから意味ない」という見方が生まれます。
理由2:資格と実務力が別物だから
合格しても、実務では会計システムの操作や社内ルールの習得が必要になります。したがって「受かったのに現場で使えない」と感じる場面が出てきます。この感覚自体は正確です。
理由3:会計ソフトとAIが進んだから
クラウド会計の普及で、仕訳の自動化は確実に進みました。ゆえに「手で仕訳を切る知識はもう不要では」という声も上がります。ただし、自動で作られた数字が正しいかを判断する役割は残ります。
【検証1】独占業務がない資格は、本当に意味がないのか
ここからが検証です。まず理由1を扱います。資格の効き方は、次の3つに分けて考えると整理できます。
| 性格 | 例 | 効き方 |
|---|---|---|
| 独占業務がある | 公認会計士、税理士 | その資格がなければ業務ができない |
| 法令上の設置義務がある | 衛生管理者 など | 対象の事業場では配置が必要になる |
| 知識水準を示す | 日商簿記、FASS検定 など | 応募要件・歓迎要件として加点される |
日商簿記は3つ目に入ります。たしかに独占性はありません。しかし、独占業務の有無が価値を決める唯一の軸かというと、そうではありません。
面談から:法令で配置が求められる資格でも、処遇は上がらなかった
当社の面談に、取得者の少ない専門資格を持っている方がいらっしゃいました。上の表でいえば2つ目に該当する、希少性の高い資格です。
その資格は、特定の作業を行う事業場では、人数に関わらず配置が求められるものでした。
ところが、この方の当時の年収は前職の水準を下回っていました。専門性を深める目的で入られた職場で、実際には別の業務に時間を取られていたためです。
つまり、法令に裏づけられた資格であっても、配属と業務内容が合わなければ処遇には反映されません。だからこそ「独占業務がないから意味ない」という論法は成り立ちません。価値を決めているのは資格の分類ではなく、置かれた場所だからです。
【検証2】年間508,159名が受けている事実をどう読むか
次に、簿記がどれだけ受けられているかを確認します。日本商工会議所は級別・方式別に受験者データを公表しています。2025年度(2025年4月〜2026年3月)を集計すると次のとおりです。
| 級 | ネット試験 | 統一試験 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 3級 | 276,477名 | 52,723名 | 329,200名 |
| 2級 | 141,072名 | 17,753名 | 158,825名 |
| 1級 | ─ | 20,134名 | 20,134名 |
| 合計 | 417,549名 | 90,610名 | 508,159名 |
日本商工会議所「簿記 受験者データ」の公表値をもとに当社が集計。統一試験は2025年度に実施された回(3級・2級は第170〜172回、1級は第170回・第171回)の合計。統一試験は実受験者数、ネット試験は受験者数。
年間で50万人を超えています。もちろん、受験者が多いことは価値の証明にはなりません。しかし、意味のない資格に毎年50万人が時間と受験料を投じ続けると考えるのは無理があります。
とはいえ、受験者が多いと、かえって差がつかないのではありませんか。
LXキャリア
差をつける道具というより、説明を省ける道具だと考えてほしいんです。たとえば2025年度は、1〜3級を合わせて508,159名が受験しています。それだけ知られているからこそ、書類選考の短い時間でも水準がそのまま伝わるんですよ。
つまり、資格名だけで伝わること自体が価値なんですね。
規模がもたらす「説明のいらなさ」
採用の現場で効いてくるのは、この規模そのものです。応募書類に簿記2級と書けば、読み手はほぼ確実に水準を想像できます。つまり、説明が要りません。
一方、受験者数が年に数千人規模の検定では、資格名だけでは伝わらないことがあります。そのため一行の補足が必要になります。この差は、書類選考のように短時間で読まれる場面で表れます。
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【検証3】手当として返ってくる金額の実数
金銭面も確認しておきます。厚生労働省「令和7年就労条件総合調査」によると、「技能手当、技術(資格)手当など」の支給企業割合は53.0%でした。支給された労働者1人あたりの平均額は月21,500円です。いずれも令和6年11月分の集計になります。
年間に直すと25.8万円です。ただし、これは経理の資格に限った統計ではありません。また同調査の対象は、常時30人以上の常用労働者を雇用する民営企業です。
もうひとつ、見落とされやすい性格があります。同調査は諸手当を「賞与等の算定基礎とならない」性格の賃金と定義しています。つまり、同じ金額でも基本給に入るかどうかで生涯の受取額は変わります。
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資格ではなく、職種で見たときの水準
視点を変えて、職種そのものの賃金水準も見ておきます。厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」の職種別統計表では、「会計事務従事者」の所定内給与額と年間賞与から年収換算で約512万円が算出できます。中位数は月291,100円でした。
ただし、この区分には注意点があります。総務省「日本標準職業分類」では、会計事務従事者に現金出納事務員や預貯金窓口事務員も含まれます。反対に、公認会計士や税理士の専門的業務は含まれません。つまり経理職とぴったり一致する区分ではありません。
それでも、ひとつ言えることがあります。資格手当の年25.8万円という金額は、この水準に対して数%にあたる規模だということです。したがって、手当だけを見て資格の意味を判断しないでください。
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合格直後にこそ「意味なかった」と感じやすい
もうひとつ、時間の問題があります。「簿記は意味ない」と感じるタイミングは、たいてい合格した直後です。
実は2級に受かったのですが、仕事は何も変わらなくて。やっぱり意味がなかったのでしょうか。
LXキャリア
合格した直後は、そう感じやすいんです。というのも、担当が広がるのは次の期の分担が決まるときか、転職や異動のときだからです。それなら、合格した時点で使い道を1つ決めておきましょう。たとえば、決算業務の一部を担当したいと上長に申し出たり、職務経歴書を先に書き換えたりする方法があります。
効果が出るまでの時間差を、自分で縮めにいくんですね。
いずれも合格直後にしかできない動きではありません。しかし、時間が空くほど動機は薄れます。だからこそ、勢いのあるうちに一手を打っておいてください。
それでも「意味がない」状態になる3つのパターン
ここまでは肯定的な材料を並べてきました。しかし、実際に「意味がなかった」と感じる方がいるのも事実です。当社の面談で見る限り、原因は次の3つに集約されます。
パターン1:実務と接続しないまま置いてある
資格欄に書いてあるだけで、職務経歴書の本文とつながっていないケースです。読み手からすると、知識をどう使ったのかが分かりません。したがって加点しにくくなります。
対策は単純です。「簿記2級の工業簿記の知識を使い、製造原価報告書の作成を担当した」のように、資格と担当業務を1行でつなげてください。
パターン2:目的を決めずに次の級へ進む
2級のあと、なんとなく1級に進んでしまう場合です。学習時間は伸びますが、狙うポジションが決まっていないと成果に結びつきません。むしろ、その時間を実務経験に充てたほうが評価されることもあります。
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パターン3:配属と業務内容が資格と噛み合っていない
前述の、法令で配置が求められる資格を持っていた方が、まさにこの状態でした。資格そのものは希少でも、日々の業務が別方向であれば処遇には反映されません。この場合、必要なのは次の資格ではなく環境を変える判断です。
逆に、資格が決定的に効いた場面
反対の例も挙げておきます。ある専門性の高い決算ポジションを扱ったときのことです。企業が求めていたのはその分野の会計処理の経験者でしたが、該当する方が市場にほとんどいませんでした。
企業側の話では、理想はその分野の実務経験者だが、見つからない場合は日本の公認会計士の資格があれば、すぐにキャッチアップできるだろうという判断でした。
ここでは、資格が実務経験の代替として働いています。しかも加点ではなく、応募できるかどうかを分ける条件になっていました。
ところで、資格が実務経験の代わりになる場面もあるんですか。
LXキャリア
あります。ただ、今の例は、実務経験者が市場にほとんどいない分野だったからこそなんです。つまり資格が効くかどうかは、狙う求人で何が足りていないかによって決まるんですよ。
資格の強さは、求人側の事情しだいでもあるんですね。
なお、これらは個別の事例であり、相場や平均を示すものではありません。また当社が結果を保証するものでもありません。
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「意味ある簿記」に変える3つの手順
ここまでの検証をふまえ、実行できる形にまとめます。
| 手順 | やること |
|---|---|
| 1. 使う場面を先に決める | 狙う求人を10件並べ、簿記が要件に何回登場するかを数える |
| 2. 実務と1行でつなぐ | 職務経歴書で、資格と担当業務を同じ文の中に置く |
| 3. 反映される場所を確認する | 手当なのか基本給なのか、賞与の算定基礎に入るのかを賃金規程で確認する |
3つとも、資格を取ったあとにできることです。だからこそ、すでに取得済みの方でも今から効果を回収できます。
それなら、いまの資格と経験で、年収がどのくらいになるのか知りたいです。
LXキャリア
たとえば経理の年収診断なら、担当範囲と保有資格から想定年収の目安が90秒でわかります。そのうえで、簿記をどの場面で使うかを一緒に決めましょう。
まずは自分の現在地を確かめてみます。
「簿記は意味ない」に関するよくある質問
Q1. 簿記3級だけでも意味はありますか
未経験から経理を目指す段階では意味があります。2025年度は3級だけで329,200名が受験しており、認知度も十分です。ただし、経理経験者にとっては2級が実質的な出発点になります。
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Q2. AIが進んでも簿記の知識は残りますか
自動化されるのは処理であり、判断ではありません。むしろ、出てきた数字が妥当かどうかを検証する場面では知識が必要になります。したがって、読む力の重要性はむしろ上がっています。
Q3. 実務経験があるなら簿記はいらないのでは
経験者の選考では、担当範囲と決算での役割が重視されます。そのため資格が決め手になる場面は多くありません。ただし応募要件に書かれている場合は、資格がないだけで見送りになることがあります。
Q4. 独学で取っても評価は変わりませんか
取得方法による差はありません。応募書類にも学習方法を書く欄はありません。
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Q5. 1級まで取れば年収は上がりますか
資格そのものより、担当できる業務が変わるかどうかで決まります。連結決算や開示に関わるようになれば、評価は変わります。
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まとめ|「簿記は意味ない」は条件つきで正しい
簿記は意味ないという言葉は、条件つきで正しいといえます。実務と接続せず、目的も決めずに置いてあれば、たしかに効果は生まれません。
一方で、2025年度に1〜3級を受験した方は508,159名にのぼります。これだけの規模があるからこそ、資格名だけで水準が伝わります。そして手当としても、支給企業割合53.0%という実数があります。
要するに、資格の価値は分類ではなく置き方で決まります。まずは使う場面を決めてください。そのうえで、実務と1行でつなぎ、どこに反映されるかを確認しましょう。
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📌 この記事の一次情報源
- 日本商工会議所「簿記 受験者データ」(級別・方式別の受験者数、合格者数、合格率)
- 日本商工会議所「簿記検定試験」(各級の到達水準・出題範囲)
- 厚生労働省「令和7年就労条件総合調査」第17表・第18表(諸手当の種類別支給企業割合および1人平均支給額。令和6年11月分)
- 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」職種別統計表(会計事務従事者)
- 当社が2026年に実施した経理・管理部門候補者との面談記録および求人企業ヒアリング記録(個人・企業が特定されないよう内容を一般化して掲載)
